タクシーの悲劇inローマ
あああああ、どうしようどうしよう!どうしたらいいの、とぶつぶつ呟きながら、私はローマの街を早足で駆け巡っていた。
お金もない、知り合いもいない、天気は曇り、集合時間が迫っている、そんな状況で、見知らぬ土地、英語もろくにできないハタチそこそこの小娘が、途方にくれるにもってこいのシチュエーションのなか、それでもなんとか見覚えのある建物(ツアー中に何度か添乗員さんによって集合させられた場所)を見つけ、タクシー乗り場までの位置をつたない英語で道ゆく人に話しかけて聞き、ようやく乗れたタクシーで、さらなる悲劇が待っていた。
住所が、なかった。
集合場所であり、二日間泊まった、郊外のあのホテルの、住所が、どこだかわからないのである。
あるはずの旅のしおりがどこを探しても見当たらない。きっとどこかで落としたのだろう。まさか。こんなことがあろうか。ここまできて、目的地がわからないなんて、帰れないどころではない。Wi-Fiはホテルのロビーに置いてあるスーツケースのなかに入れてきてしまっていたし(これが1番ばか)、電波を4Gに繋げれば添乗員さんと連絡が取れるけれど、そんなことをしたら携帯代がいくらいくかわかったものじゃない。その手段はギリギリまで取っておこうと思っていたのだけれど、ここで使うか__________。
ようやく乗りかけたタクシーで、ドライバーに、目的地を言えないままほぼ半泣き状態、日本語で「なんで!?なんでないの!?」と慌てふためき連呼する日本人の女の子を、誰が面倒見てくれるというのだろう?ドライバーは、「どこへいくかわからないのなら降りてくれ」と私を下ろそうとしたけど、乗りかかった船をこのまま去るわけにいかない。すでに集合時間は刻一刻と近づいているし、ここでタクシーを逃したらすぐ乗れるわけでもなさそうだ。そこで私はハッとする。
そういえば、私、昨日ホテルで、添乗員さんから例の電話をもらった時、もし万が一のことを考えてローマ市内からホテルまで歩いて帰ってこようとして位置情報の住所を写メっていたんだった__________!
カメラロールを遡ると、あった、ホテルで位置情報をスクショしたものが。ああもうよかったこれこれ、と言いながら、ドライバーに住所をいう。「カパネールホテル!」こんなに過去の自分に心の底から感謝することはない。OK、あそこね!といった感じで、ドライバーもわかってくれたみたい。発進に、それでも本当に着くか不安だったので食い入るように周りの景色を見る。うんうん大丈夫、通った道、通った建物、大丈夫、大丈夫。あ、よかった。安心。
と思いきや……
「ナンバーは?」
え?ナンバー?なんの?ホテルだよ?
もういちど、住所をみる。
「capanellee 88」
とあるので、読み上げても、ちがうちがう、ナンバーだよ、となんども言われる。挙げ句の果てには…
「I don`t know」
__________は?
(↑スペイン広場周辺を散策中に撮った、誰もいない路地。こわい)